【漫画の仕事】は、「荒川 弘」「いくえみ綾」「海野 つなみ」「冬目 景」の4名にインタビューした一冊。
著者はその4名を長年に渡り面白い作品を書き続けているだけではなく、人の内面を漫画に表す点でそれぞれ新しい文脈を切り開いてきたという点を評価し、本著を読者にとって「精神的な仲間」のような存在になってほしいとの想いを込めたインタビュー本です。
ということで今日は、木村俊介【漫画の仕事】のあらすじや感想をご紹介していきたいと思います。
木村俊介【漫画の仕事】書籍情報
木村俊介【漫画の仕事】のあらすじ
木村俊介【漫画の仕事】のあらすじをご紹介します。
第1章 海野つなみ 心の大きな動きを描く
ドラマ化もされ大ヒットした「逃げるは恥だが役に立つ」の作者である海野つなみさんがどのように漫画家になり、どのようにデビューしたのかが書かれております。
漫画はアナログで描く原稿だとアシスタントが何人も必要になりますが、アシスタント業務だけでは食べていけない為、アシスタント業務の他に掛け持ちでアルバイトをされている方もいたのでスケジュール調整が難しかったり、家庭の事情で続けることが出来なくなったりするので、その場合はまた一からアシスタントを探さなければいけなくなる。
その為、海野つなみさんは編集者から連載のお話をもらってもその状況だと厳しいのではと思い、ある方法を思いつき実験的に試してみたところ、結果的にそれがのちにこれまでで一番の大きな転換点となった。
海野つなみさんの大きな転換点となったそのある方法とは・・・?
第2章 妄想を練るものが漫画 いくえみ綾
映画化された「潔く柔く」「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」、ドラマ化された「あなたのことはそれほど」「G線上のあなたと私」「いとしのニーナ」等、大ヒット作を長年に渡り描き続けてきたいくえみ綾さん。
いくえみ綾さんが漫画家になるきっかけや、どのようにストーリーを作っているのか、そして担当編集者さん達との関係性や自分の絵に対する思いなどが詳細に語られている。
14歳で漫画家になり高校3年生の頃に連載を持ち、学校でもいくえみ綾さんが漫画を描いていることは知られており、学生カバンに絵を描いてもらう為にいくえみ綾さんの机の前に列が出来ていたというさすがのエピソード。
実家で夜中にネームを描いていた時のお父さんの行動や、アシスタントがまだいなかった頃にお友達がいくえみ綾さんのマンションにゴハンを作りにきてくれて何泊かした時に言われたことなどが語られている。
そしていくえみ綾さんは最大8本同時という超人的な量の連載もしていたことがあるが、全てアナログで描かれており現在もデジタルではなくアナログで漫画を描き続けている。
なぜいくえみ綾さんはデジタルで作画をしないのか、そして自分の漫画が変わってきたと思う点とは・・・?
第3章 下書きに最も時間をかける 冬目景
数々の賞を受賞している冬目 景さんは、多摩美術大学では美術学部絵画科油画を専攻し、漫画研究会にも入会していましたが、高校時代はロックが好きで軽音楽部に入っていてエレキギターを弾いていた。
音楽を漫画の中で表現することについて、どうすれば音が聴こえてくるように描けるのか試行錯誤しているが、それに対して世間からは「爽快感がある」や「新鮮に描いている絵」と評価されている。
デビューした当時は漫画なんだから漫画らしく描かなければいけないという思いからあえていかにも「漫画っぽい絵」にしていたが、大学時代に油絵を専攻していたこともあり、少しずつ実写っぽい感じの絵も取り入れていった。
冬目 景さんは自称「線フェチ」で鉛筆や油性のペンを使ってみたりしながら、印刷するとどのように見えるのかなどを実験的に色々試していた。
そんな冬目 景さんのデビューからの担当編集者さんが冬目 景さんの漫画の魅力について語られた言葉がとても素敵だった。
担当編集者さんが思う冬目 景さんの漫画の魅力とは・・・?
第4章 続きが楽しみにな娯楽として 荒川弘
TVアニメ化もされた「鋼の錬金術師」「銀の匙 Silver Spoon」や数々の賞を受賞している荒川 弘さん。
「荒川 弘」というペンネーム故に男性と間違われやすいですが、性別は女性でありお姉さんが3人、弟さんが1人の5人姉弟という大家族という環境で育ち、荒川 弘さんも他の姉弟も漫画が好きで色んなタイプの漫画を買ってお互いに読み合っていた。
家業が酪農だったこともあり身の回りに動物が沢山居る環境だった為、中学生ぐらいまでは動物の絵ばかり描いていたが、獣医師になれたらいいなと思っていたそうです。
ただ、獣医師以外にも漫画家にもなりたいという思いがあり、獣医師の免許を取ってから漫画の道を進むことを考えていた。
でも実家の経済的な状況を考えると獣医学科に6年間も通う余裕はないということがわかり、弟さんが高校卒業するまでの7年間ぐらいまでは家業を手伝いながら漫画を描いてゲーム仲間や歴史好き仲間と同人誌を出していた。
そしてゲーム好きが高じてキャラクターの描き方は、好きだった「ストリートファイターⅡ」に影響を受け、「荒川 弘」というペンネームの前に使用していた「エドモンド荒川」というペンネームも「ストリートファイターⅡ」の「エドモンド本田」をよく使っていたからという由来だった。
編集者との関係性についての話の中で、ある日編集者から神妙な声で電話がかかってきた際に、荒川 弘さんは「鋼の錬金術師」の打ち切りかと思いビクッとしたが、電話上では頑なに用件を言ってくれず、印刷所の方と編集長と一緒に伺いたいと言われ、仕事場に来た際にあることを告げられ平謝りされたという。
印刷所と編集長と編集者が3人揃って謝罪に来たあるやらかしとは・・・?
木村俊介【漫画の仕事】の感想
今回、4人の女性漫画家の方のインタビューでしたが、ペンネームだけではどの作品を描いているのかわからない方もいました。
でも作品名を聞いて「あっ!あの作品の!」とわかる有名作品を描かれている方達で、それぞれ漫画家を目指したきっかけや漫画に対する思いは様々ですが、共通しているのは皆さん漫画を描くことが小さい頃から大好きで、好きなことをやり続けているうちに自然と漫画家の道に導かれたということでした。
てっきり漫画家になる為に血眼で漫画を描いて出版社に売り込んだり応募したりして漫画家デビューしたのかと勘違いしていたので、本著を読んであまりにも自分の想像と違っていてビックリしました。
好きなこととはいえ長年漫画を描き続けるのは、新しいネタを考え続けたり短期間の締め切りに追われて徹夜したり精神的にも体力的にも決して楽なことではないと思います。
それでも本著に登場している4名の方はただひたすらに自分の好きなものを描き続けていたという感じで、描けなくて苦労したということもあまりなく、いかに自分が納得出来る作品を作るかを追求しているというスタンスに、漫画を描く為に生まれてきたような人達だなと感心しました。
こんな風に自分が打ち込める好きなことや、そんな好きなことを仕事に出来て自分の作品を世に出せるのは本当に幸せなことですが、そんな風に生きられるのはほんの一握りだと思います。
でも自分が気づいていないだけで、みんな何かしら夢中になれることや、傍から見れば過酷な状況でも苦労も苦労とは思わないくらい夢中になれる物があるかもしれません。
それは若いうちだけの話ではなく、歳をとってから見つかることもあると思うので、大事なのはちょっとでも興味があったり気になったりすることはとりあえず試してみるという行動力が大事かもしれないなと思いました。
木村俊介【漫画の仕事】のおすすめポイント
4人の漫画家の方がどのようなきっかけで漫画家になったのか、そしてどのような気持ちで漫画に取り組まれているのかについての詳細が描かれているので、作品からは見えない裏舞台を見せてもらっているような気持になります。
沢山の作品を描き続けるうえでどのようにストーリーを考えているのかや、行き詰った時の対応方法などもそれぞれ異なり、読者にとっても何かを考える時の参考になると思います。
漫画もどんどんデジタル化も取り入れられてますが、あえてアナログで描き続ける理由なども事細かく書かれており、効率などよりも大切にされているそれぞれの想いなどを知ることが出来るので、漫画を読む時により絵の描き方などをしっかり見てみようという気持ちになります。
学生の頃から漫画を描き続けて、特に誰かのアシスタントをしないままデビュー出来たり、アシスタント後に無事にデビュー出来る方などデビューまでの経緯は人それぞれである。
荒川 弘さんがアシスタントをしていた「衛藤 ヒロユキ先生」とのやり取りや、連載が決まった時にかけてくれた言葉がとてもジ~ンとする内容でしたので、そのエピソードは特におすすめです。
まとめ
好きなことを仕事にしたい方や何か熱中出来るものがある方には、4名の方の生き方や考え方に共感出来たり憧れる気持ちが湧いてくると思います。
漫画に限らず自分が取り組んでいることに対して、最善を尽くすことやもっと良いものに出来ないか思考錯誤して妥協しない大切さについて、あらためてどんな姿勢で取り組むべきか考えさせられるきっかけになると思います。
周りの意見を取り入れる柔軟性や自分の譲れない点や妥協出来ないことを貫く心の強さなど、自分の生き方に迷いがある人には4人の方の姿勢の中に道しるべのようなヒントが書かれているのでおススメです。
漫画が好きな方には、漫画家の方達がどのようにストーリを考えて作品を作っているのか、作者のこだわりや漫画に対しての想いなど4人の方の色んな視点を知ることが出来るのでとても読みごたえがあります。
★この本が気になった方にはこちらの本もおすすめです★
コメント